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パピルスプロジェクトについて / Papyrus Project

「東海大学所蔵 古代エジプト・パピルス文書の修復保存・解読・出版に関わる国際プロジェクト」は東海大学総合研究機構プロジェクトとして2013年度〜2015年度に実施されました。

このプロジェクトには6つの関連プロジェクトがあり、
1) パピルス文書修復師養成プロジェクト(東海大学文学部アジア文明学科山花研究室)
2) AENETコレクションの画像デジタル・アーカイブ プロジェクト(東海大学文学部歴史学科考古学専攻宮原研究室+文学部アジア文明学科山花研究室)
3) パピルス等文化財の科学分析-工学部との共同プロジェクト(東海大学工学部材料科学科葛巻研究室+文学部アジア文明学科山花研究室)
4) AENETコレクション整理修復作業プロジェクト(現在のチャレンジセンターユニークプロジェクトEgyptian Project)
5) 国際チームによるパピルス文書解読出版プロジェクト(米国イェール大学+ジョンズ・ホプキンス大学+文学部アジア文明学科山花研究室)
6) 「悠久のナイル-ファラオと民の歴史」展覧会企画実行プロジェクト(横浜ユーラシア文化館+文学部アジア文明学科山花研究室)

に分かれています。これらのうち5)と6)は2015年度末にて終了しましたが、1)、3)、4)のプロジェクトは現在も大学教員と学生のボランティア活動(Egyptian Project)によって継続中です。

あなたも文化財を護り活かすプロジェクトに参加しませんか?

▶︎プロジェクト紹介ムービー

文字からのアプローチ

パピルス文書は古代版「LINE」だった?

パピルスって??

古代エジプトの紙である「パピルス」は、湿地帯に自生していたカヤツリグサ科の植物の茎の芯を削(そ)いだものを縦横で組み合わせ、圧着させて作られました。その起源は古く、ピラミッド時代と呼ばれる古王国時代にはすでに作られていました。
パピルスは英語のPaper(紙)の語源でもあり、筆記する媒体として羊皮紙がパピルスに取って代わるまで長い間使い続けられました。
古代エジプト人はパピルス紙に葦(あし)で作ったペンを使い、煤(すす)のインクで神聖文字(ヒエログリフ)、神官文字(ヒエラティック)、民衆文字(デモティック)、ギリシア文字などを使って文字を書きました。パピルス紙には契約文書や会計文書、「死者の書」などの宗教文書や手紙などが記されました。パピルス紙は高価で貴重なものであったため、手紙を出したら、手紙を受け取った人はそのパピルス紙に返信を書いてパピルス紙を元の所有者へ戻したそうです。必ず返信しなければいけないなんて、まるで「LINE」みたいですね。

日本最多のコレクション!

東海大学のパピルス文書コレクションは400片を超えます。これらは古代エジプト社会を知る上で非常に貴重な資料です。本学のパピルス文書は米国イェール大学とジョンズ・ホプキンス大学、そして東海大学のメンバーで構成されたチームが解読に取り掛かりましたが、解読作業を始める前に折れたり裂けたりしているパピルス文書の修復を行わなければなりません。ところが、日本にはパピルスを修復できる専門の修復師が不在でした。

「東海大学の古代エジプト・パピルス文書の修復保存・解読・出版に関する 国際プロジェクト」

そこで2013年より「東海大学の古代エジプト・パピルス文書の修復保存・解読・出版に関する国際プロジェクト」が発足し、まずは修復ができる学生を育てることから始めました。

日本初!パピルス修復師養成ワークショップ

東海大学では2013年よりこのプロジェクトがスタートしました。パピルス文書修復に興味を持っている学生を募ったところ、多数の応募がありましたが、その中から集中力と手先の器用さ、そして熱意のある学生12名に絞込みワークショップを行いました。講師はワークショップのためにわざわざドイツから招聘したミリアム・クルシュ先生です。ミリアム先生はドイツのベルリンにある新博物館のパピルス文書修復の責任者で、現在世界中で活躍しているパピルス修復師たちの「先生」でもあり、世界的に高い評価を得ています。そんなミリアム先生が日本という極東の地にあるパピルス文書に興味を示し、学生修復師をトレーニングする役割を快く引き受けてくれました。

それまで修復保存を手がけた経験がないため、道具や薬品を海外から取り寄せたり、日本の和紙修復に携わっている装潢師(そうこうし)の方々に助言をいただいたりして準備を整え、ミリアム先生をお迎えしました。
ミリアム先生は学生に文化財を扱うとはいかに責任の重いことか、扱う前にどのような心構えや準備をすればよいか、といった最も大切な基本を日本の学生に教えてくれました。そして、「パピルス紙学」の概要を講義した後は、学生一人ひとりに対して修復実技を指導してくれました。
このワークショップの講義は英語で行われたため、2013年度は山花准教授をはじめ、通訳ボランティアの学生がコミュニケーションを円滑にする助けをしてくれたのですが、2014年、2015年とプロジェクトが進むにつれて通訳無しで英語のコミュニケーションをとる必要に迫られ、最初は英語が大の苦手な学生も次第に慣れていきました。 その後、パピルス修復のさらなる技術を習得するために米国ミシガン大学のパピルス修復センターのライラ・ロー・ラム上級修復師の下へ研修に行き、さらにミリアム・クルシュ先生の職場であるベルリンへも研修に出かける機会を得ました。

受講生は知識や技術を努力して習得した後に得られる達成感を身をもって体験しました。修復に携わった学生は、自分が修復したパピルス文書が博物館の展覧会に出品されているのを見て大感激しました。今まで日本の社会ばかりを見てきた学生が、チャレンジ精神と日々の努力さえあれば日本を飛び越えて世界を舞台に活躍できることがわかったのです。

パピルス文書に興味がある!!
修復保存作業をしてみたい!!
そんなあなたが、次の学生修復師です!
日本で学生にパピルス文書の修復を教えているのは東海大学だけです。学生の間に貴重な体験をしてみませんか。

古代文字を読み解く!

パピルス文書の解読と出版

パピルス文書を修復することで、文書はやっと「解読」できる状態になります。東海大学所蔵のパピルス文書のうち主だったものは米国イェール大学のジョセフ・マニング教授とジョンズ・ホプキンス大学のリチャード・ジャスノウ教授と博士課程の研究者の卵たち、そして文学部アジア文明学科の山花准教授との共同研究で解読作業が行われました。

日本では古代エジプトと言うと、「エジプト考古学」が花形の学問分野です。古代エジプト語の文献を解読する「エジプト学」(文献学)は考古学人気に隠れてしまい、専門家は少数です。さらに、古代エジプト語の中でもヒエログリフ(象形文字)は大学の授業(東海大学には授業があります)やカルチャー講座などがありますが、ヒエラティック(神官文字)やデモティック(民衆文字)となると日本人では解読できる研究者がほとんどいません。

しかし、東海大学が所蔵しているパピルス文書は大多数がデモティック(民衆文字)で書かれています。そこで山花准教授はシカゴ大学時代の先輩であるマニング教授とジャスノウ教授に連絡を取り、AENETコレクションの文書写真を見せたところ、文書の中にはそれらが書かれた当時の社会の様相を再構築することができる重要な手がかりを持つものがあることがわかりました。

そこで解読と出版のプロジェクトがスタートしました。2012年より毎年秋にマニング教授とジャスノウ教授、そして彼らの指導する博士課程の学生たちが東海大学を訪れ、解読作業の傍ら、活発に啓蒙と交流を行ってくれたのです。彼らは日本では殆ど教えられていないヒエログリフ、ヒエラティック、デモティックの講座を準備し学生向けに講義を行い、ラウンドテーブル(意見交換会)にて日本在住の専門家と議論を交わし、知識の活性化に一役買ってくれました。もちろん東海大学の学部学生も参加し、学問テーマを軸に討論を行う場面を目の当たりにし、国際学会の雰囲気を味わいました。

2016年度にはパピルス文書を解読した書籍The Demotic and Hieratic Papyri in the Suzuki Collection of Tokai University, Japanが米国の出版社Lockwood Prより上梓されました。

失われた遺跡を蘇らせる

デジタルアーカイブ・プロジェクト 

AENETコレクションの中で最も多いのは約15000枚にものぼる1950~60年代当時のエジプトや関連地域の画像・映像記録(ネガ、ポジ、ブローニー、スライド、8mmフィルムなど)です。コレクションが寄贈された時、すでに50年以上経過していたものばかりで、ほとんどのフィルムは赤く変色しカビが生えていました。
デジタルアーカイブ・プロジェクトでは、東海大学情報技術センターの技術指導と協力を受けながら、フィルムの汚れを水洗いで落とし、乾燥後撥水処理を行い、スキャナーで取り込みデジタルデータとして保存します。取り込んだ画像は大きな垂れ幕も作れるように4800dpi(1枚の画像につき2~3GB)という高画質で保存しています。
画像は劣化したままの状態でデジタルデータとしてコンピューターに保存されます。ただそのままでは鑑賞できる画像ではないため、赤味の強い画像やカビ痕の残る画像を人の手で一つ一つ修正する地道なデジタル補正作業が行われました。
現在ではこれら15000枚の画像のなかでも重要度の高いものー今ではすでに失われてしまった遺跡の写真や当時の風俗などーのデジタル補正を行い、保存しています。

最先端技術が古代の匠を解き明かす!

文理融合の研究

東海大学は総合大学です。古代エジプトの文化財を収蔵する文学部のほかにもさまざまな学部学科があり、私たちは学部学科の壁を越えた「学際」研究にも力を入れています。

古代エジプトのパピルス文書を科学の力で解明

本学は総合大学としてのメリットを活かして、古代エジプトのパピルス文書を科学的に分析するプロジェクトも行っています。
古代エジプト文明は紀元前3000年頃から紀元前後まで続きました。日本では縄文時代の頃、古代エジプトではすでに巨大なピラミッドを築いたり、まばゆいばかりの黄金のマスクを制作したり、高度な文字体系を確立して文書を作成していました。
AENETコレクションは工学部と連携し、パピルス文書や金属製品などを科学的アプローチで調査しています。科学の目で古代遺物を眺めることで、素材の特性や古代における原材料の交易、そして古代技術の水準などを解明できます。
一例として工学部材料科学科の葛巻研究室と文学部アジア文明学科の山花研究室とのパピルス文書についての共同研究をご紹介します。
AENETコレクションのパピルス文書には民衆文字(デモティック)で書かれているものが多いのですが、時にはヒエラティック(神官文字)やギリシア語も使われています。書かれている文字の種類で大まかな時代判定ができますが、文字だけでは細かな年代推定は不可能です。また、同じ種類の文字が書かれていても、パピルスの紙質は実に様々です。果たしてこの違いは何を示唆しているのでしょうか?

このような文献学や考古学だけでは解明できない問題は、科学分析を用いることで解明の手がかりが掴めます。
これまでにパピルスの紙質の分析やインクの分析、そしてパピルスに付着している顔料などの分析を行いました。文化財の分析は非破壊が大原則です。プロジェクトチームでは分析の際に試料を破壊しないよう「非破壊分析」の装置を利用しました。
パピルスの紙質については、見た目の違いや質感が分析できる赤外分光法(FT-IR)という分析方法を使い、パピルスのセルロース繊維の劣化状態を分析しました。結果、セルロース繊維の劣化状態がパピルス文書の相対年代推定に役立つ可能性を発見しました。
パピルス文書に使われている黒インクは、元素の組成が分かる蛍光X線分析法(XRF)と結晶構造が分かるX線回折法(XRD)を用い調査を行いました。黒インクには煤由来の原材料と、鉄由来の原材料の2種類が使われており、先行研究のデータより、これらの材料が使われ始めた時代を推定することができます。

さらに、2015年には「カルトナージュ」という、パピルス紙を再利用してミイラを覆う包み紙として使用した時に塗られた青、白、赤、黄などの顔料も分析しました。その結果、エジプトのナイル河畔で入手できる顔料だけではなく、古代人が作った人工顔料や東部砂漠などの遠方で入手した可能性のある材料などがあることもわかりました。